寺田本家

千葉県香取郡神崎町、利根川の流れに寄り添う地に、寺田本家は蔵を構えている。創業は延宝元年、1673年。三百五十年以上にわたり、同じ土地で酒造りを続けてきた老舗である。神崎町は発酵文化の町として知られ、味噌や醤油、日本酒など、微生物と共にある営みが今も息づいている。

寺田本家では、米・水・微生物という酒造りの根幹に、できる限り手を加えない姿勢を明確にしている。農薬や化学肥料に頼らない米を用い、蔵に棲みつく微生物の働きを活かしながら、自然のリズムに沿った仕込みを行う。速さや効率よりも、時間と変化を受け入れることを前提とした造りである。

製法においては、生酛造りを軸とし、酵母や乳酸菌の働きを人為的に操作しない酒造りが特徴となっている。添加物を用いず、発酵そのものの推移を見守る工程は、常に同じ結果を約束するものではないが、その年、その蔵、その環境が映し出される酒となる。

静かな蔵の中で進む発酵は、目に見えない存在との対話のようでもある。利根川の気配と土地の時間を含んだ酒は、穏やかな酸と奥行きを備え、飲み手にゆっくりと余韻を残す。寺田本家の酒は、土地と微生物が重なり合う場所から生まれる、静かな存在感を湛えている。

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